関口宏のお父様、佐野周二がイケメン・スキーヤー姿の昭和13年・帝劇のプログラム

 昭和10年代の映画館は上映作品・次回作品紹介の小冊子を出していました。これを宣伝用のチラシというべきか、映画館のプログラムというべきか、タグをつけるときに、いつも迷ってしまうのですが、今回からプログラムの範疇に入れようかなと思いまして、「プログラム」のタグも加えました。昭和13年6月、帝国劇場(帝劇)のプログラムです。

 ウィンター・スポーツの季節になってきましたが、表紙はスキー姿のイケメン。佐野周二です。関口宏のお父さん、関口知宏のお祖父さんです。カッケー感じです。「国民の誓」からのワンショット。

 表紙を開きますと...

 左ページにありますように、なぜかプログラムは英語で紹介されています。しかも、「ブルー・スカイ」というショーと「舞踏会の手帖」というフランス映画のセットという不思議な組み合わせです。そして、時代を感じさせるのは、左にある「国民精神総動員」「尽忠報国」「挙国一致」「堅忍持久」というスローガンであります。英語でプログラムを組んで、ダンシング・ガールが出て来るショーをやっているんですから、「国民精神総動員」という活字には、いかにも取ってつけた感があります。この文字を入れないと、「非国民」とか、うるさいこと言う人たちがいそうだから、とりあえず入れておいて的な感じがあります。昭和13年、日米開戦3年前でも、みんな目を釣り上げていたわけでもないのですね。でも、流されていって...。時流は怖いです。

 続きまして、次週予告。本当は見開き4面になるんですが、あまりにも横長なので、半分ずつ...。

 佐野周二主演の「国民の誓」、ソニヤ・ヘニータイロン・パワー主演の米国映画「氷上乱舞(アイス・レビュウ)」の豪華二本立てであります。かたや北海道ロケのスキー映画、かたやフィギュアースケートのアイスショー映画。ウィンター・スポーツ全開です。ウィンター・スポーツ映画ですが、公開は6月...。このあたり昔は公開は季節に合わせてとかマーケティングなど気にしなかったようです。

 「国民の誓」は昭和13年(1938年)の作品で、撮影や俳優に外国人を起用し、プログラムを読みますと、「世界に贈る国際輸出映画」と銘打ってあります。ハードパワーだけでなく、ソフトパワーでも世界に、と考えた人が戦前にもいたのかもしれません。

 「氷上乱舞」は1937年(昭和12年)製作の米国作品。主演のソニヤ・ヘニーウィキペディアでは「ソニア・ヘニー」)は、ノルウェー出身のフィギュア・スケートの女王で、オリンピック3連覇、世界フィギュアで10連覇という抜群の成績を残し、引退後はアイスショーに転じ、1936年に主演した「銀盤の女王」が大ヒット。その余勢をかって作られたのが、この映画のようです。キム・ヨナが映画に出たみたいなものなのでしょう。

 以上、次週予告で、今週の上映作品は...

 フランス映画の名匠、ジュリアン・デュヴィヴィエ監督の傑作「舞踏会の手帖」、1937年(昭和12年)の作品です。若くして未亡人になった女性が社交界デビューした舞踏会の手帖をもとに、そこで一緒にダンスをした男性たちを訪ねていく話。希望に満ちた男の子たちはどんな人生を送って、いまどうなっているのか。初恋の人は?−−この物語の構造は今でも使えそうです。

 そして映画と一緒に上演された「ブルー・スカイ」というショー。

 松竹楽劇団の第3回公演となっています。レビューのような感じです。各場面のタイトルを見ますと、「トップ・ハット」「クリスティヌの思い出」「ベティとリズムボーイ」「ジャズ・ベビー」「シューシャイン・ボーイ」とか、「国民精神総動員」の時代ではありますが、「鬼畜米英」ではまだなかったようです。これから、わずか3年半で「鬼畜米英」になってしまうんですから、怖いものです。

 グランド・ショー「ブルー・スカイ」の横に「S・S・Kダンシングチーム特別出演」とあります。SKDとして知られた「松竹歌劇団」の前身のようです。しかし、日本人はアルファベット3文字が好きなのかもしれません、「SSK」「SKD」、いまでは「AKB」「HKT」。新しいようで、昭和初期からあったネーミング手法なんですね。

 おまけに最後のページ...

 この頃の映画のプログラム、裏表紙はだいたい広告です。そしてだいたい、化粧品かデンタルケアです。本当は、歯は美人の決め手と言いたいところ、「美しい強健な歯に」と「強健」を入れているところは昭和13年という時代の空気を反映しているのかもしれません。美しくなるためでなく、強く健康で尽忠報国できる人になるためだと...。このあたり、時代を追っていくと、微妙に広告が美から健康に変わっていきます。

 さて、DVD化の状況を見ますと、「舞踏会の手帖」はフランス映画の古典として当然、あります。

舞踏会の手帖 [DVD]

舞踏会の手帖 [DVD]

 「国民の誓」は見当たりませんでした。

 一方、「氷上乱舞」はVHSが出ていたことがあるようです。さすがフィギュアの女王です。

氷上乱舞【字幕版】 [VHS]

氷上乱舞【字幕版】 [VHS]