昭和13年、日本人は新宿で、南京攻略戦の記録映画と一緒に、ポパイ、ミッキー、ベティ・ブープを見ていた

 昭和13年(1938年)4月頃とみられる新宿映画劇場・文化ニュース劇場のチラシ。2つ折りのチラシの表紙を見ると、一押しは東宝文化映画部製作の「南京」。前年1937年12月の日本軍による南京占領の記録映画(この南京攻略戦の際に南京事件=南京大虐殺=が起きた)。

 既に時代は日中戦争の最中。表紙を見ている分には戦意高揚の意図が見え、暗い昭和という感じがする。しかし、2つ折を開くと、様相は一変する。

 ん。ポパイのイラスト...。4月14日から20日までという「今週のプログラム」をよく見ると、ニュースを挟みながらの大アニメ大会で、ベティ・ブープの「ベティの御難」、大イラストのポパイは「ポパイと猿廻し」、さらにはウォルト・ディズニーの「ミッキーの夢物語」。「腕白日記」「夏冬合戦」を製作しているP.A.パワーズは当時は有名なアニメ(cartoon)の作り手だったらしい。
 ともあれ、途中にニュースや科学映画「砲弾を解剖する」が入っていたり、5分間の休憩の後、東宝文化映画の戦争記録映画「南京」が大トリで控えてはいるものの、どうも観客の目当て(そして、興行主の売り)は米国のアニメといった感じなのだ。実際、裏表紙となる部分はこんな具合。

 「アカデミー賞・極彩色漫画大会・ウォルト・ディズニー傑作集」が翌週の売りなのだ。イラストは有名な「シリー・シンフォニー」シリーズ。昭和13年ころ、日本人はアメキャラ大好きだったのだ。しかし、このチラシ、本当に、よくできている。上から改めて見ると、わかるように、表紙は戦争一色。でも、一皮剥けば、アメキャラの大アニメ大会で、翌週の売りもディズニー。当時のフツーの人々のニーズがどこにあったのかは一目瞭然。とはいえ、戦時体制に入ろうとしている時期であり、軍人さんやお役人、時流に乗って建前を振りかざす、うるさい人たちをいなす洒落たチラシになっている。やっぱり新宿だなあ。

 で、このときに登場していたキャラクターたちは強くて、戦争を乗り越え、昭和を生き抜き、平成のいまも生命力を持っている。

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