イタリアの巨匠、ルキノ・ヴィスコンティ監督の「地獄に堕ちた勇者ども」

 ナチス・ドイツは人間のダークサイドを極限まで表出させた存在であっただけに、何度も映画のテーマになっています。こちらは、イタリアの巨匠、ルキノ・ヴィスコンティ監督の作品です。

 1969年製作、日本公開は1970年(昭和45年)の「地獄に堕ちた勇者ども」のパンフレットの表紙です。日本語タイトルでは「勇者ども」が付いていますが、英語版のタイトルが「The Damned」。英辞郎によると「永遠に呪われた者」「地獄に堕ちた者」で、勇者の話ではありませんから、「勇」の字は不要の映画です。クルップ家を思わせるドイツ財閥とナチスの協力、そして、ナチスによる突撃隊粛清の話が荘重かつ、おどろおどろしく語られます。

 で、ページを開くと、ヴィスコンティのメッセージが入っています。

 左ページ写真のナチス親衛隊員の横に立つ女性はシャーロット・ランプリングです。この汚れた映画のなかで、高貴で美しかったあ。

 そして、もう1ページ開くと、こんな人のコメントも入っています。

サド侯爵夫人・わが友ヒットラー (新潮文庫) 三島由紀夫です。三島も、ヒトラーが、盟友の突撃隊長、レームと左派の知恵袋、シュトラッサーという左右両派を粛清し、クルップの協力をとりつけて独裁政権を確立する運命の日を描いた名作戯曲「わが友ヒトラー」を書いていますので、ルキノ・ヴィスコンティのこの作品には感じるものがあったでしょう。ふたりの芸術家が同じ時期に関心を持ち、それを作品にしたわけです。
 この映画の日本公開は、ウィキペディアによると、1970年の4月。三島由紀夫が市ヶ谷の自衛隊で割腹自決したのは同じ年の11月25日でした。半年後には亡き人になっていたわけですねえ。

 で、出演者紹介のページです。

 この映画の主役は、ダーク・ボガードとイングリット・チューリンということなんでしょうが、一躍注目された若手は、ヘルムート・バーガーと上の写真にあったシャーロット・ランプリングでしょう。バーガーは上の右の写真にもあるように、女装してマレーネ・ディートリッヒの「嘆きの天使」を演じるなど、その妖しい魅力でブレークしました。一方、シャーロット・ランプリングは、この映画で注目を集め、このあと、ダーク・ボガードと共演したリリアーナ・カヴァーニ監督の「愛の嵐」で評価を決定づけます。その意味でも記念的な映画ではあります。

 そして裏表紙です。

 ナチス突撃隊の乱交パーティ。といっても、男だけ...。こうしたところが財界には嫌悪されたのでしょうが、その一方で、財界の家のなかを覗き見れば、口には出せないような倒錯した世界があるんですよ、という映画でした。そんな退廃、虚無、暴力といった人間のダークサイドを象徴する存在であったがゆえに、ヴィスコンティも三島もナチス、それも、エスタブリッシュメントと野合し、異端を排除した、この時期のナチスに創作意欲をかきたてられたんでしょう。正義や清潔を主張する人の裏側にある暗黒面も同時に描き出されるんですね。

 で、これは巨匠、ルキノ・ヴィスコンティの古典でありますから、当然、DVDになっています。

地獄に堕ちた勇者ども [DVD]

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 でも、正直言いまして、この映画、最も印象に残っているのは、シャーロット・ランプリングですねえ、個人的には...。