1970年代、ヒッチコックの復活を告げたミステリー・サスペンスの名作「フレンジー」

 フランソワ・トリュフォーはじめフランス・ヌーベルバーグの作家たちにも尊敬されていたサスペンスの王様、アルフレッド・ヒッチコックもさすがに1960年代の後半に入ると精彩を欠き、「ヒッチコックも終わった」と言われるようになりました。そんなときに、ヒッチコックの復活を告げた一作が、1972年(昭和47年)公開の、この一作です。

 ハリウッドを離れ、祖国・英国に戻って撮った作品、「フレンジー」。日比谷にあった有楽座のプログラムの表紙です。この映画、小品ですが、ヒッチコックらしい面白さと刺激的な映像的創意に満ちた映画でした。スタッフ・キャストは、こんな顔ぶれです。

 キャストの名前を見ても、わからないと思うので、もうちょっと詳しいキャストの紹介ページです。

 新人・ベテランなど、しっかりとしたメンバーを選んでいるのですが、何よりも地味です。ハリウッド時代とはだいぶ違います。しかし、ミステリー、サスペンスの場合、スターを使わないほうが筋書きが読めなくなります。

 プログラムには、ヒッチコックのこれまでの作品の紹介もあります。

 ここに紹介されている映画で言いますと、芸術性と大衆性が融合した「サイコ」「鳥」がピークとなり、その後は「マーニー」から勢いが衰え、「引き裂かれたカーテン」「トパーズ」で、「さすがのヒッチコックも終わったか」といわれるようになりました。そんな誰も期待を持たなくなった中で、この「フレンジー」が登場し、ヒッチコックは再び、注目を浴びるようになりました。

 この映画でのヒッチコックならではの名場面といえば、こんなところがあります。連続殺人鬼の犯人が女性を連れ、階段を上がって自分の部屋に入る。その階段を上がっていく2人の姿をカメラは追うように撮っていくのですが、ドアが閉まると、外に締め出された形のカメラは今度は今まで昇ってきた階段を後退し、アパートの玄関を抜け、喧騒の通りに出るところまでをワンショットで見せます。その時間のなかに、女性の運命を推測させる独創的なショットで、「ヒッチコック、いまだ老いず、侮りがたし」となりました。ヒッチコックは1899年生まれだったから、73歳だったわけですが、若々しい映像的感性が残っていることを英国に戻って証明したわけです。

 この映画、当然、DVDにあります。

 ヒッチコック映画の研究書といえば、何と言っても、こちらでしょう。フランソワ・トリュフォーヒッチコックに対するオマージュとも言えます。
定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー

定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー