東欧民主化の胎動を予見したアンジェイ・ワイダ監督の「大理石の男」

 いま開かれているサッカー欧州選手権「EURO2012」の舞台となっているポーランド*1グダニスクにも、その会場のひとつがあります。そのポーランド、そしてグダニスクを舞台にした映画がこちら...

 1977年に製作され、1980年(昭和55年)に日本で公開された、アンジェイ・ワイダ監督の「大理石の男」です。第2次大戦後、労働英雄に祭り上げられた男の生涯を通じて、共産党政権によって抑圧されたポーランドの戦後を描いていきます。当時はまだ冷戦下、共産党が絶対権力の時代ですから、かなり思い切った内容でした。この映画では、グダニスク造船所での民主化運動の話が登場するのですが、映画ができてから3年後の1980年に、ここに独立自主管理労組「連帯」が結成され、ポーランド民主化運動の拠点となります。映画が、この地に新たな芽が生まれることを予見したかのような印象を与えました。この1980年のグダニスク造船所のストライキを題材に、ワイダはこの映画の続編「鉄の男」を撮っています。

 プログラムの表紙を開くと、目次があります。

市民ケーン [DVD] 写真の颯爽とした女性がヒロインの映画学科の学生。演じていたのは、クリスティナ・ヤンダ。カッコイイ女性です。この女子学生が、歴史の中に消え去った労働英雄に興味を持ち、調べていくうちに、ポーランドの闇が浮かび上がってくるという構成でした。数々の関係者の思い出話によって紡ぎ出していくストーリー展開は、オーソン・ウェルズ監督の名作「市民ケーン」を思わせるものがあります。

 さて、目次を見ますと、作品研究、作家研究だけではなく、アンジェイ・ワイダ監督作品の総目録、「大理石の男」採録シナリオまで掲載されています。エキプ・ド・シネマらしいこだわりで、よくできたプログラムです。

 このプログラムには、ワイダ監督のご挨拶もあります。

 そして、スタッフ・キャストの紹介と解説・ストーリー紹介です。

 ポーランドは、この日本公開の後、1981年にソ連の圧力で戒厳令が敷か、民主運動家が拘束されるなど、夜明けを迎えるまでには紆余曲折があり、ハリウッド映画のように、すぐにハッピーエンドというわけには行きませんでした。ただ、そんな知識や、政治的な理屈抜きでも、隠された真実を追っていくミステリーものとしても面白い映画です。政治性と娯楽性が融合した映画と言っていいんでしょう。

 ポーランド映画の古典であるわけですが、DVDとしては、アンジェイ・ワイダ作品集のBOXに入る形で売られているようです。

*1:EURO2012はポーランドウクライナの共同開催